雪国・十日町から ちからのブログ

豪雪地に暮らす思いとその自然について綴ります

水涸れの大河・信濃川   カゲロウ大発生

 9月15日頃からカゲロウ(オオシロカゲロウ)が、信濃川にかかる妻有大橋で大発生しています。夜通りかかると街灯に群がっているのが見えます。
 朝になるとカラスがカゲロウの死骸を食べようと集まり、(妻有大橋のたもと付近ではちょうど道路工事中ですが)工事をしている人は悪臭とカラスで困っていることでしょう。

f:id:chikaratookamati:20190917154721j:plain

 橋の欄干もこの通りです。(カラスの糞だと思われます。)

f:id:chikaratookamati:20190917192730j:plain

 オオシロカゲロウは毎年この時期に大発生します。大発生すると車がスリップしたり悪臭がしたりして厄介者ですが、川の浄化に一役買ってくれる虫のようなので、この時ばかりは我慢しなければなりません。

 

 ところで、『水が消えた大河で ルポJR東日本信濃川不正取水事件』(三浦英之)が、集英社文庫として出版された(2019年8月30日)ことを知り、早速購入して読みました。

f:id:chikaratookamati:20190917200048j:plain

この本は2010年8月に単行本として刊行されたものを文庫化したものです。内容は「日本最大の河川である信濃川千曲川水系(新潟県・長野県)を舞台にした、JR東日本の不正取水事件を追ったルポルタージュ」です。日本一の大河・信濃川(全長367キロという長さだけではなく、年間160億トンという総流量においても日本一)はJR東日本東京電力の巨大な発電ダムによって堰き止められ、その下流約60キロにわたって水がほとんど流れない「涸れ川」になっていました。

 東京電力・西大滝ダムで発電される総電力量は年間12億キロワット時、JR東日本・宮中ダムで生み出される電力は年間14億キロワット時であり、いずれも一般水力としては国内最大級の規模である。現在、東京電力はこれらの電気を主に新潟県内に配電し、JR東日本は主に山手線などの運行に使用している。東京電力にとっては販売電力量のわずか0.4%に過ぎないものの、JR東日本にとっては年間使用電力約62億キロワットの実に23%に及んでいる。水力発電への依存がピークとなる朝夕のラッシュ時に限って言えば、「山手線の二本に一本は信濃川の水で動いている」のである。    (P30)

 東京の山手線は信濃川の水で動いていて、そのために十日町市信濃川には水が流れていないのです。JR東日本は地元の猛反対を無視し、1990(平成2)年に既存の千手発電所小千谷発電所に加えて、信濃川沿いに新たに水力発電所(新小千谷発電所)を完成し、それまでの167トンから一気に150トンも増やして、毎秒317トンもの大量取水を開始。そのために十日町市信濃川は一気に干上がり、慢性的な水涸れ状態になりました。しかしその最大毎秒317トンというのも嘘で、JR東日本は取水量が317トンを超えても、317トン以上にならないように「上限設定プログラム」組み込んで取水量を改竄し、毎秒7トンをダム下流に流すという約束も果たさず、信濃川の水を根こそぎ取水していました。その不正取水が2008(平成20)年9月に発覚し、ついにJR東日本は2009年3月に水利権を取り消されます。この本は前述したように2010年8月に単行本として刊行されたものなので、記述はほぼJR東日本が水利権を取り消されるところで終わっています。
 十日町市に30億円、小千谷市に20億円、川口町7億円、合計57億円の資金を流域自治体に寄付するなどして、JR東日本は2010年6月10日に1年3か月ぶりに信濃川の取水を再開させたことが、「あとがき」に若干書かれていますが、約10年たった現在信濃川の水がどうなっているのか書かれていないのが残念です。

 宮中ダムのすぐ下流には宮中橋が架かり、その3㎞くらい下流には姿大橋、さらにその3~4㎞下流には十日町橋、その1㎞くらい下流には妻有大橋が架かっています。

 現在の妻有大橋から見た上流の状況は次のようです。

f:id:chikaratookamati:20190917182254j:plain

 十日町橋から見たの上流の様子はこうです。

f:id:chikaratookamati:20190917182405j:plain

 十日町橋の橋脚はこんな流れになっています。

f:id:chikaratookamati:20190917182603j:plain

 姿大橋の上流のはこうです。

f:id:chikaratookamati:20190917182653j:plain

 そして宮中橋から宮中ダムを見るとこうなります。

f:id:chikaratookamati:20190917182821j:plain

  こんな川の流れで、水を取り戻したと言えるのでしょうか。十日町橋の橋脚の流れなどを見ると、こんな浅い流れを鮭が遡上するのは、とても困難です。宮中ダムの放流されている左の隅に見えるのが、不正取水発覚後に改善された魚道です。

f:id:chikaratookamati:20190917212611j:plain

f:id:chikaratookamati:20190918055551j:plain

f:id:chikaratookamati:20190917193216j:plain

次の写真は右から、大型魚道、小型魚道、せせらぎ魚道になります。

f:id:chikaratookamati:20190917193547j:plain

魚道観察室(写真で旗が見える所)で流れを見るとこうなります。

f:id:chikaratookamati:20190917193847j:plain

 この写真ではよく分かりませんが、大型魚道はとても速い流れです。宮中ダムの上流・飯山市野沢温泉村の境にある西大滝ダムでも数匹の鮭の遡上が確認されるようになりましたが、「奇跡の鮭」と言えるのではないでしょうか。

 前述の通りJR東日本が水利権を取り消されたのは2009年3月ですが、国土交通省の処分の発表は2009年2月13日にありました。水利権を取り消す手続きに入ることを正式に発表した岡村幸弘という広域水管理官は、新たに発覚したJR東日本の不正についても公表しました。

 改ざんプログラムの設置時期について、JR東日本は「2000年」と説明していたのに対し、岡村は「1990(平成2)年であると思われる」と訂正しただけでなく、「2000年と2001年にはプログラムの更新手続きが取られている」と追加した。JR東日本は新発電所の建設当初から改ざんプログラムを設置していただけでなく、その後2度にわたってその存在を確認・更新していたというのだ。
 不正取水の量についても修正が加えられた。JR東日本信濃川からの不正取水量を「1998(平成10)年から2007年の10年間で1億8000万トン」としているのに対し、岡村は「2002年から2008年の7年間で1億7000万トン」と訂正した上で、発電所内の取水口別に取水された不正取水分を足し合わせると、「2002年から2008年の7年間で合計約3億1000万トンに上る」と指摘した。
 岡村はさらに報道陣に向かってこう告げた。
「発表した不正取水量は記録が残っているものについてのものです。改ざんプログラムが1990年から設置されていることを考えれば、川からの不正取水量はそれ以上になる可能性も否定できません」   (P208)

 JR東日本は2008年9月に不正取水が発覚した後、約2カ月に及んだ内部調査の結果を11月に発表していたのですが、それが全くのデタラメだったことが明らかにされのです。こんなJR東日本に対し、十日町市は、宮中ダムからの取水で発電している千手発電所小千谷発電所および新小千谷発電所の発電量を記録が残っている不正の発覚前の8年間分(5年間分でもいい)をJR東日本に公表させることもせずに、1年3か月後にあっさりと取水の再開を認めてしまいます。(発電量から大体の取水量は計算できるはずです。)十日町市の対応は全くの呆れたものでした。

 2015(平成27)年5月8日に十日町市JR東日本は、「信濃川の河川環境と水利使用の調和に関する覚書」を締結しました。その一部を示します。(「覚書」の乙とはJR東日本を指します。)

f:id:chikaratookamati:20190918091307j:plain

  この表を見ると、私がそれぞれの橋から信濃川の写真を撮ったのは、今日9月17日のことですから、宮中ダムから放流されていた水の量は60㎥/s程度だったのでしょうか。これではあまりにも少ないと思います。

 信濃川の水に関心を持っている人は、地元でも少ないように思います。これは信濃川が豊かな恵みをもたらしたことや信濃川の水の文化がほぼ全て記憶から失われてしまったからと言えるのではないでしょうか。新しい信濃川の文化を創り出して、信濃川を自分の身近な存在に感じることができなくては、関心を持つ人が多くなることはないと思います。それには十日町市信濃川がカヌーで下ることもできず、歩いて渡れるような状態では、信濃川と人とが現代の新しい関係を結ぶのは困難です。
 十日町市は宮中ダムから、信濃川の支流である魚野川並みの80㎥/s~100㎥/sの放流を要請していたはずです。それが認められていたとしても、魚野川より川幅が広い信濃川には少ない量です。それが40㎥/s、60㎥/sとは。十日町市は新小千谷発電所の建設に猛反対でした。それを無視して作り、出来上がったら発電所があるのだから目いっぱい信濃川の水を使わせとは、不法占拠と同じではないでしょうか。

 これからも信濃川に注目していきたいと思います。

 

 魚道に降りる階段に、ヨウシュヤマゴボウが咲いていました。とてもきれいだったので紹介します。

f:id:chikaratookamati:20190918101504j:plain